「日経メッセ、リアルとオンラインのハイブリッドに挑戦」日経イベント・プロ 坪崎哲夫氏に聞く|EVENTORS Future〜イベント新時代への挑戦〜【第9回】
新型コロナウイルスの影響で激変するイベント業界で奮闘する次世代リーダーたちのリレーインタビュー。第9回は、日本経済新聞社の全額出資子会社で、日経グループのイベント事業で中核的な役割を果たしている日経イベント・プロ取締役の坪崎哲夫氏(58)に聞きました。
日経グループ主催イベントを中心に年間約2千件を運営
――御社の事業を教えてください。
「日経グループが主催している各種産業展示会やセミナー、その他の官公庁・団体や企業の催事を合わせて年間約2千件のイベントの運営を担っています。東京ビッグサイト全館を貸し切り、4日間で約20万人が来場する『日経メッセ街づくり・店づくり総合展』のような大型展から、20~30人のビジネスマン向けセミナーまで幅広く担っています。当社は、もともと日経ピーアールのイベント事業本部と、日経BPのセミナー・イベント運営部が母体となって、日経グループのイベント事業の中核的な役割を果たすために、2018年に設立されました」
――新聞社がイベント事業をする強みはどこにあるのですか。
「新聞や電子版、グループには雑誌、電波など幅広く媒体を持っているので、そこに向けて広告などでイベントの内容を紹介することができます。日本経済新聞に加えて、専門紙で流通向けの日経MJや企業情報に強い日経産業新聞があり、雑誌もヘルスケアやモノづくりなど細分化された媒体があるので、ターゲティングもしやすいです。セミナーに関しては、日経新聞社が、日経ID(読者情報)を持っていますから、ターゲティングしてメールで案内を出すこともできます」
忘れられない東日本大震災での危機対応
――約30年間、日経グループでイベント関連事業に関わっていらっしゃいますが、忘れられないイベントはありますか。
「イベントは次から次へとありますし、あまり記憶に残さない性格です。ただ、2011年3月11日の東日本大震災は忘れられません。この日は、日経メッセの最終日でした。最終日は一番来場者が多く、会場の東京ビッグサイトには当時、2万から3万人ぐらいのお客様と出展者がいました。私はこの展示会の責任者でした」
「もちろん、非常時のマニュアルはあったのですが、通用しませんでした。津波が来るのか、余震が続く中で仮設の展示物は大丈夫なのかなどの不安を抱える中、けが人の手当て、多くの帰宅困難者への対応などすべきことが山のようにありました。出展者や協力会社とともに、ほぼ寝ずに対応しました。すべての撤収作業を終えたのは翌12日の夜で、大きな人的な被害がなかったことにとても安堵しました」
――教訓はありましたか。
「運営マニュアル全体を大きく見直しました。イベントというのは、多くの人が関わります。主催者、出展者、会場、協力会社などとの連絡体制をどうとるのか、各々の役割分担などを含め、その強化を図りました。さらに、弊社社員全員が消防署で、上級救命講習を受けました。胸部圧迫(心臓マッサージ)や、外傷の応急手当、搬送などの知識や技術を身につけさせました」
日経メッセ、リアルとオンラインのハイブリッド開催
――新型コロナウイルスの影響を教えてください。
「日経メッセは、毎年3月上旬に開いています。主催する日経新聞社が中止を決定したのは、開催の10日ぐらい前。出展する各社も準備を進めていたし、運営や資材の発注も終えていました。出展料は日経新聞社が全額払い戻ししました。緊急事態宣言中は全てのイベントがキャンセルになり、入札を勝ち抜いたイベントもありました。従業員の安全を考えて我々も在宅勤務を余儀なくされました。入札を勝ち抜いたイベントも開催中止となりました」
「5月ぐらいから、オンラインでセミナーをできないかというご要望を頂き、収録や配信の方法を色々と研究して、徐々にオンラインでの取り組みを広げていきました。前年に実施していた360度カメラを使うVRでのオンライン展示会技術なども応用しました。日経新聞社本体も、独自にプラットフォームの開発を進め、NIKKEI NEON(日経オンライン展示場)のバージョン1.0を完成させました。我々が運用を担っているのですが、名刺交換や問い合わせなどの機能はもちろん、知らないブースとの偶然の出会いを実現するために、『隣のブース』という機能や、ランダムにブースが案内されるような仕組みも組み込んでいます」
――2021年3月の日経メッセはどうされる予定ですか。
「初めて、リアルとオンラインのハイブリッドに挑戦しようと考えています。やらなければなりません。オンラインには、時間や空間の制限を受けず、間口を広げるという意味で非常に価値があります。一方、商品の特性を実際に見たり、聞いたりしたいというリアルの場にも価値があります。日経メッセは非常に多様な展示で構成されていますから、オンラインとリアルの双方の利点をうまく活用した展示会を目指したいと思います」
好奇心と探究心
――最後に、イベント業界を志す若者にメッセージがあればお願いします。
「好奇心や探究心がある人が向いていると思います。派手さよりも、一つ一つを愚直に積み重ねて、お客様の要求に応えていくことが大切だからです。主催者、出展者、協賛社、来場者とステークホルダーが多いのがイベント業界の特徴で、どこかだけが良くなるのではなく、全体が良くなる、全体が得するというところを目指していかなければいけません。イベントですから、事故があったり、思いもよらない悪いことも起こったりします。それをうまく管理するための準備や機転の良さも必要です。うまくいくのが当たり前で、褒めてももらえません。でも、その、うまく行って当たり前のことを、人知れずやりきる。それが、私たちの仕事です」
【プロフィール】坪崎哲夫(つぼさき・てつお)1962年生まれ。富山市出身。1985年に日本経済新聞社入社、88年に事業局に配属されて以降、約30年間、各種産業展示会や国際会議、展覧会、表彰、音楽催事などの企画・運営に携わる。17年に日経ピーアール、18年10月に設立した日経イベント・プロに移り取締役、19年から取締役・営業担当。座右の銘は「一期一会」。
【会社概要】株式会社日経イベント・プロ(https://www.nikkeieventspro.co.jp/)。東京都千代田区。今井秀和社長。従業員は72人(21年1月時点)。2018年10月に、日経グループのイベント事業の中核的な担い手となるため、日本経済新聞社の全額出資で設立。母体は、日経ピーアールのイベント事業本部と、日経BPのイベント事業局セミナー・イベント運営部。プロの社名には、プロフェッショナル(専門家集団)、プロデュース(新しい発想でイベント価値を高める)、プロモーション(顧客創造)などの意味を込める。問い合わせはホームページ(https://www.nikkeieventspro.co.jp/contact/)へ。
この記事へのコメントはありません。