「学びを深め、経験を重ねて、提案力を磨く」つむら工芸 西原健輔氏に聞く|EVENTORS Future〜イベント新時代への挑戦〜【第7回】
新型コロナウイルスの影響で激変するイベント業界で奮闘する次世代リーダーたちのリレーインタビュー。第7回は、テレビ番組や展示会における舞台美術の老舗のつむら工芸(大阪市西区)の西原健輔氏(25)に聞きました。
NHK朝ドラから劇団四季まで舞台美術を提供
――御社の事業を教えてください。
「主力事業はテレビ番組の舞台美術で、NHK朝ドラ「連続テレビ小説」では1975年以降42作品に美術セットを提供してきました。『新婚さんいらっしゃい!』(朝日放送)や、『クローズアップ現代+』(NHK)など国民的番組にも私たちのセットが入っています。劇団四季のミュージカルや新国立劇場のバレエ、歌手のコンサート、企業展示など実績は広く、おそらくほとんどの人が私たちの仕事をどこかで目にしていると思います」
――西原さんは入社3年目ですが、これまでどんな担当をしてきましたか。
「展示会関係を担当してきました。大きな仕事としては、東京・台場にある日本科学未来館の展示に携わりました。落合洋一さんが総合監修で、昨年秋にオープンした展示では、今後10年残る内容にしようと1年かけて準備を進めました。計算機の進化をテーマとした展示では、コンピュータがどんどん進化すると、自然なものと、人間がコンピュータで再現したものの見分けがつかなくなります。そうしたコンセプトを、青い金属の光沢を放ち、世界で最も美しい蝶とも言われるモルフォ蝶の標本と、構造色印刷という方法で作られた人工蝶を混在させて展示したりしました」
コロナで在宅勤務を初めて経験
――コロナの影響について教えてください。
「この春は緊急事態宣言でステイホームとなり、会社全体で3~5割に仕事が激減しました。私自身も初めて在宅勤務を経験しました。夏以降にどんな展示をすればいいのかについて、オンラインで話し合いました。特に、私が担当する展示会関係では、安全・安心をどう担保するかが重要なので、感染症対策については徹底して議論しました。どうソーシャルディスタスを確保するのか、触ることができる展示物であれば、アルコール消毒を毎日何十回しても劣化しにくい素材の採用を考えたりしました」
――足元の状況はどうですか?
「出社する機会は増えています。私はほぼ毎日ですし、周りも7割ぐらいが内装工事の現場を含め、出社している状況です。会社全体では仕事は回復してきているものの、スポーツイベントやコンサートなどの案件は仕事があまり戻ってきていません。博物館や美術館のようなあまり広告宣伝費の影響を受けないような案件を今後、増やしていく必要性を感じています」
YouTuber向けにも挑戦してみたい
――イベント業界のおもしろさ、難しさをどう感じていますか。
「展示の安全性や演出を考えるときに、舞台美術に対する基本的な知識がしっかりしていないと、提案することができません。知識があればあるほど、応用力のある提案もすることができます。『その展示をするためには、こうした技術や素材がありますよ』と顧客に提案して、理解してもらい、それを協力会社さんと作り上げ、お客さんが喜んでいる姿を見たときには、最高にうれしくなります。逆に言えば、知らないとそうした提案はできません。学びを深め、経験を重ねて、提案力を磨く。そうした姿勢を大切にしています」
――コロナをきっかけに新たに学びたいことはありますか。
「弊社の仕事内容は、お客さんに展示会場に足を運んでもらって、実際に見て、触って、感情を揺さぶるしかけを作り上げることです。これが、『つむら精神』だと思っています。こうした強みは大切にしながらも、オンラインで距離や旅費に関係なく、安心した場所からイベントに参加することも可能になってきています。動画やオンラインで伝えるときには、どういった舞台美術がいいのか、全く新しい領域ですが、勉強していきたいと考えています」
――御社のテレビ向けの強みを生かし、YouTuber向けを考えてはどうですか。 「あくまで個人の意見ですが、私自身、お笑いタレントの出ているYouTubeチャンネルをよく見ていて、企画の持ち込みや、舞台美術を提供してタッグを組めないかなぁ、と心の中でこっそり考えていました。弊社は伝統のある会社ですが、大衆に向けた新しいものには挑戦していきたいですね。若いからこそできることもある。ありがたいことに同期入社13人いますが、1人も会社を辞めていません。コロナで会う機会が減っていますが、そうした新たなチャレンジも共有して、未来につなげていきたいと考えています」
【プロフィール】 西原健輔(にしはら・けんすけ)1995年生まれ。名古屋市出身。中京大学で心理学を学び、卒業後につむら工芸に入社し、展示会イベントの舞台美術を中心に担当。座右の銘は「すみなすもは心なりけり」(厳しい状況も心の持ち方で変えられるし、この言葉を遺した高杉晋作のように世の中を変えていくのも心が大切であるという意味があると理解している)。
【会社概要】 株式会社つむら工芸 (http://www.tsumura-kogei.com/)。 大阪:大阪市西区京町堀2-12-24。東京:東京都港区三田3-16-12山光ビル7F 代表取締役浜田晋。従業員は172人。1957年設立、前身は1917年草創の「津村画房」。テレビ番組の大道具やイベント企画を手がけ、自社で制作工場も持つ。問い合わせ先は電話(06―6488-2761)。
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