「ビッグデータ活用し、エンタメ体験をもっと豊かに」 ボードウォーク 佐藤シメオン氏に聞く|EVENTORS Future〜イベント新時代への挑戦〜【第6回】
新型コロナウイルスの影響で激変するイベント業界で奮闘する次世代リーダーたちのリレーインタビュー。第6回は、電子チケットやファンクラブ事業のデジタルマーケティングで業界を牽引する株式会社ボードウォーク(東京都千代田区)の佐藤シメオン氏(40)に聞きました。(写真右側)
電子チケットサービスのパイオニア 安室さん向けも
――御社の事業を教えてください。
「10年前に電通とNTTドコモなどの出資でできた会社で、携帯電話で入場できる電子チケットのサービスから始まり、現在はデータマーケティングやファンクラブビジネス、Eコマース(電子商取引)などの事業をしています。主力サービス『チケットボード』の会員数は、現在887万人。電子チケットですから、なりすましの防止はもちろん、イベントが近づくのに合わせて、来場者にメールを送り、気分を盛り上げるようなこともしています」
「安室奈美恵さんのファイナルコンサートやファンクラブのサービスも、当社で請け負っていました。コンサートの申込者がどこから来ていて、何時に入場して、どこに座ったのかなど、すべてのデータを蓄積しています。こうして集めたデータは、Eコマースにも活用しています」
――5月に入社されていますが、転職のきっかけは何ですか。
「前職はレコード会社で勤務していました。音楽コンテンツを扱うほか、関連する総合的なビジネスとして、企業の販促のお手伝いやイベント・展覧会など企画・制作・施工・運営などを担当させてもらいました。レコード会社のようなエンタメ会社が、いわば広告代理店やイベント会社のようにいろんなジャンルの仕事に関わっていくことで、クライアントは、面白いをカタチにしてくれるんだと期待されることも多くなり、受注が増えることに大きな自信や経験につながりました。そんな時、担当していた大型展覧会の興行で、入場チケットを準備する際にチケットボードというサービスを導入しました。1日に4000人もの来場者を安全に事故がなく何十日も運営しなければいけないという目標があり、「安全」に入場できるような運営を考えたり、「無駄な待ち時間をできるだけなくす」ために日時指定制や時間指定をイベント運営に設計しながら、イベントは、マネジメントするものという思考に変わっていきました。この準備に無理なお願いを聞いてくれた窓口のスタッフや柔軟性、汎用性の高いサービスに魅了され、転職を意識するきっかけとなりました。前の職場では18年間働いていたので、たくさんのことを学び、退職は心苦しかったのですが、デジタルという可能性を信じて、出会った方々とはいつかはまた仕事ができるだろうと思い、新しい世界に飛び込みました」
アーティストとファン遠隔で繋げる 体調管理アプリも
――コロナによる事業への影響や対応を教えてください
「感染が拡大した当初は、コンサートが全てキャンセルになり、返金作業に追われました。同時に、アーティストの方々を支援するために、インターネット経由の配信プラットフォーム『ネオブリッジ』を開発し、7月にリリースしました。このプラットフォームを使うと、ライブ映像を楽しめるだけでなく、仮想のプライベートルームでファンがお互いにコミュニーケーションを取り合うこともできます。単にネットで配信コンテンツを受けるだけではなく、感動を共有できる新しい架け橋となるようなサービスを目指しました。すでに藤井フミヤさんや、新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートで利用して頂きました」
――コンサートのようなイベントでは、感染リスクが心配ですね。
「チケットの購入者がスマートフォンのアプリで手軽に体調管理できるアプリの開発を医療ベンチャーのアルムさんと進めています。このアプリは、イベントの10日ほど前からスマホのカメラで自分の顔を毎日撮影することで、肌色の変化を測定して血中酸素飽和濃度を計測できます。体温や呼吸数も記録し、医師がこれらのデータを判断し、感染の可能性が低い人だけがイベントに入場できるようにします。来年1月から本格的に提供したいと考えています。ネオブリッジと合わせて、日本のエンタメ産業がコロナを克服するための切り札として提供していきたいですね」
デジタル技術がエンタメ体験を変える
――有名企業から転職してまで、エンタメのデジタル分野に挑戦したのはなぜですか。
「昔、コミケのイベントを担当したことがあります。そのときに忘れられない経験をしました。朝5時半から会場付近で待機し、開場してから4時間も待った人たちが、欲しい商品が買えなくて、私を取り囲みました。そして、2時間近くクレームを受けたんです。『お金もあるし、商品が買いたいから、ずっと待った。でも購入することができない。どうしたら買えるんですか』って。楽しみにしていたお客さんに対して、その場ではどうすることもできず、ひたすら謝るだけでした。本当に申し訳なかった」
「そういう嫌な経験を例えば、デジタル技術があれば、なくしていけるんじゃないかと思います。入場時間を区切ったり、後でネットでも購入できるようしたり、と。もっといえば、例えばイベントの前から、どんなコンテンツや商品への関心が広いのかをデータで拾って集めておいて、在庫に生かすこともできるでしょう。当日のイベントでは、ショップに立ち寄らなくても、グッズは会場に行くまでにオンラインで購入し、イベントを最大限に楽しんで、手ぶらで帰ることもできるのです。むしろそういったデジタル技術を駆使したイベントを事前に主催者とつくることが大切で、ファンがイベントに向き合う為の新しいカルチャーがつくれるのではと思っています。」
――アーティストやクリエーターにフィードバックもしやすそうですね
「はい。実際に一部はもう始まっています。どの部分で観客が盛り上がったとか、こういうグッズの購入が多かったといった情報をアーティストらに還元することで、内容がよりよく進化していきます。ビッグデータを活用すると、エンタメ体験はより豊かになっていく。そう信じています。これから3年ぐらいがデジタルで業界が大きく変化できるチャンスであり、私自身も楽しみながら、新しい領域にチャレンジしていきます」
【プロフィール】佐藤シメオン(さとう・しめおん)1980年生まれ。ギリシャで生まれ、小学校から日本へ。明治学院大時代にはサッカー部に所属、卒業後の2003年にソニーミュージックに入社し、洋楽/邦楽の宣伝のほか、人事や、アーティスト発掘/育成、イベント制作の営業などを担当、後半は展覧会ビジネスで、自社興行に関わる。今年5月にボードウォークに転職し、デジタルサービスなどを中心に事業開発推進などを担当。
【会社概要】株式会社ボードウォーク(https://boardwalk-inc.jp)。東京都千代田区。遠藤政伸社長CEO。従業員は50人。2010年に設立し、電子チケット事業を皮切りに、ファンクラブ、グッズ・EC、データマーケティングの事業を展開。問い合わせは同社ウェブサイトhttps://boardwalk-inc.jp/contact-form/?cate=about_bwへ。
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