「コロナ対策を見える化、来場者をどう戻すか考え抜く」 PRG 田中孝昭氏に聞く|EVENTORS Future〜イベント新時代への挑戦〜【第5回】
新型コロナウイルスの影響で激変するイベント業界で奮闘する次世代リーダーたちのリレーインタビュー。第5回は、アメリカ・ニューヨークに本社を置き、ライブエンターテイメントやイベントビジネスを支援するPRG(プロダクション・リソース・グループ)の日本法人の田中孝昭(たかあき)氏(44)に聞きました。
ドラゴンクエストの全国ツアーを支援
――御社の事業を教えてください。
「本社はニューヨークで、世界各地に拠点があります。ライブエンターテイメントのテクニカルサプライヤーとしての強みを生かし、日本でも、コンサートや芝居、ミュージカル、企業の製品発表会やテレビ局の歌番組のお手伝いをしています。制作全般において技術提案をする他、、予算やスケジュールの管理などもします。特に照明を中心とした舞台機構に強みがあり、照明は機材のレンタルや販売もしています。海外案件も得意です」
――これまで携わったイベントで思い出深いものはありますか。
「2016年に取り組んだ『ドラゴンクエストライブスペクタルツアー』です。人気RPG(ロールプレイングゲーム)の誕生30周年を迎えたプロジェクトで、最先端テクノロジーと身体芸術を融合した舞台です。横浜アリーナや大阪城ホールなど5都市で開かれ、私は企画の早い段階から関わりました。照明はもちろん、舞台機構全般に関わり、大げさに言うと、思い出したくないぐらい大変でしたが、それでもあの規模の大きな公演に関わり、成功させられたことは忘れられません」
コロナ対策を見える化し、来場者の安心感に
――新型コロナの影響を教えてください。
「3月から6月ごろまではコンサート、演劇、スポーツ、企業イベント、本当に何もないような状況でした。目の前の仕事がない中で、在宅で来年以降の企画について準備をすすめるぐらいしかできることはありませんでした。その後は、バーチャルショールームに取り組んだり、当社の照明機材を購入して頂いた方々にオンラインで講習会を開いたりしてきました」
「6月の終わりからネット配信で無観客音楽コンサートが始まり、テレビ局の音楽番組も収録が再開しました。ただ、withコロナ時代は厳しさがあります。音楽配信でも、リアルは1席の収益が上がりますが、オンラインはネットにつながったテレビの前で5人同時に見ることもできます。その場合、収益的には非常に厳しくなります」
――どうすればいいのでしょうか。
「やはり、来場者に戻ってきてもらうことが大切ですし、それをクライアントとともに考え抜いています。そのための対策はありますし、それを見える化し、来場者の安心感につなげることが必要です。いわば、安心感を売ることが重要です。たとえば、当社では除菌効果のある紫外線のライトの販売を始めました。すでにいくつかの劇場に導入されています。当社から照明機器を貸し出すときにも、このライトによる除菌を実施しています。非接触で体温を素早く表示する装置を米国から日本に導入することも考えています。また、劇場や映画館であれば、舞台の席をお客さんが来る前に消毒していたりします。そうした情報もSNSなどを通じてどんどん発信していくことが大切だと思います」
――今後の業界の動向をどう見ていますか。
「考えうる対策を徹底した上で、来場者の制限を徐々に緩和する動きがありますが、業界にとっては不可欠です。やはり、人数を半分にした劇場や映画館では収益を上げられず、事業の継続は困難です。ひとつのポイントは来年の東京オリンピック。やるか、やらないかで、厳しさが増すのか、回復していくのかの分岐点です。もちろん、やってほしいですし、業界のためにも、観客数もできるだけ収容して実施を期待しています」
強み以外にも興味を持とう
――イベント業界の魅力は何だと思いますか。
「世界の初めてのものたちに出会えること、ですね。コンサートや舞台を最初に観るのは、その制作に携わる関係者ですよね。編集者が本ではなく小説家の執筆原稿を読むのに似ているかもしれません。制作過程まで見られるのも大きな魅力だと考えています」
――業界を目指す若者にアドバイスはありますか。
「僕は大学時代に演劇に携わり、劇団四季で舞台監督業務をした後に、ニューヨークに留学しました。そこの受け入れ先がいま働いているPRGで、日本に戻ってからもここで働いています。変化の大きな今の時代には、いろんなことにチャレンジすることが大切だと思います。一つのことだけできればいいという時代では今はありません。照明もできて英語も堪能なら圧倒的に強いですよね。もちろん完璧な英語を話せなくても、ひとつ強みを持った上で、ほかのことにも興味を持つマインドが大切です。舞台しか知らないならコンサートもやってみるとか、エンタメだけでなく企業イベントにも手を挙げるなど。変化のある時代だから、そうした経験が色々な局面で役立つと思います」
【プロフィール】田中孝昭(たなか・たかあき)1976年生まれ。埼玉県出身。国士舘大学在学中より演劇に携わり卒業後、劇団四季で舞台監督業務を担う。2004年に文化庁の海外研修制度で舞台機構の勉強のためにニューヨークに留学。帰国後、ニューヨークの研修先であったPRGの日本法人で舞台、コンサート、イベント等のライブイベントで活動している。
【会社概要】株式会社PRG(https://www.prg.com/ja/ja) 。 東京都港区。ジョン・スウェイン代表取締役。従業員は65人。各種イベントの企画、運営、演出、施工、設営のほか、演出照明や照明機器の販売、映像制作なども担う。アメリカ本社は1988年にブロードウェー「オペラ座の怪人」にステージオートメーションシステムを導入したことで知られ、東京を含む世界約65カ所に拠点を持つ。問い合わせ先は電話(03-6414-8600)、FAX(03-6414-8605)。
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