「Afterコロナ、宝探しで地域活性化。海外に広げ、いずれ文化に」 タカラッシュ・齊藤多可志氏に聞く|EVENTORS Future【第4回】
新型コロナウイルスの影響で激変するイベント業界で奮闘する次世代リーダーたちのリレーインタビュー。第4回は、宝探しイベントを全国で展開するタカラッシュ(東京都江東区)の齊藤多可志(たかし)氏(51)に聞きました。
宝探し全国で2,000件 福島復興にも
――御社の事業を教えてください。
「今年事業を始めて20年になりますが、全国で手がけた宝探しイベントはざっくり2,000件になります。宝物を隠して、ヒントを手がかりに、知恵をしぼり、みんなで協力して、宝物を見つけ出してもらう。この手法を用いると、たとえば、テーマパークや商業施設への誘客、会社や学校での人材研修、観光地や地域の活性化につなげることができます。鉄道会社と協力して電車に乗っての宝探しや、企業の販売促進のために商品を宝物にすることもできます。宝を見つけ出したという達成体験の蓄積は、人間の成長にも結びつくと考えています。宝物を手に入れることと、目標をつかみ取ることは似ていて、人生そのものが宝探しだと思います」
――東日本大震災の復興にも一役買っていますね。
「震災が起きて、何か復興の手助けはできないかと動いていたら、福島県さんに共感を頂き、2012年から毎年春から秋にかけて開催してきました。多くの避難者が出た相馬市や飯舘村、南相馬市などのエリアが対象です。当初は福島県民向けのイベントでしたが、近年は首都圏にも広告を出しました。参加は無料で、宝箱を見つけると、旅行券やゲーム機、福島の特産品などが抽選で当たる仕組みです」
JTBを退社 1度きりの人生わくわくする方へ
――起業したきっかけを教えて頂けませんか。
「旅行会社のJTBを辞めて会社の後輩2人と起業した時、私は30歳でした。法人営業をそれまで担当していて、クライアントから200人ほどの社員総会での社員同士のコミュニケーションが課題という話を聞きました。宝探しを提案したところ、大成功しました。世にないサービスだし、体験すると、大人でも楽しい、これはビジネスになると思いました。それに、私は小さい頃、宝探しの遊びが大好きでした。小学生の頃、牛乳瓶のふたを校庭に隠して、宝の地図を描いて同級生に探してもらっていました。宝を探し出したときの友達の喜ぶ顔がよい思い出としてずっとありました」
――大手の安定した会社員生活を終えることに、抵抗はありませんでしたか。
「確かに大きな決断でした。ただ、不安よりも、誰もやったことのない事業に挑戦したいという気持ちの方が強かったですね。宝探しがビジネスとして成功するということに確信していました。社内でコンテンツビジネスのグループに提案をしたのですが、私は法人営業の部署から出させてもらえませんでした。人生は一度きり、わくわくする方を選択しました」
コロナ禍、オンラインに挑戦、地域活性化に貢献
――新型コロナウイルスの影響はいかがでしたか。
「宝探しは8割強がアウトドアです。3月ごろから影響が出始め、4月に緊急事態宣言が発令されると、ステイホームとなりました。一時は売り上げがほとんどなく、雇用調整助成金を活用して従業員50人の一部に休んでもらう措置も取らざるを得ませんでした」
「ただ、こんな時だから未来への投資を進めようと考えました。それで初めて挑戦したのがオンラインでの宝探しです。ゴールデンウィークに1回目を開催しようと、不眠不休の努力で準備を進めました。動画を活用して、スマートフォンやパソコンで宝探しをします。実際にやってみると、オンラインですから、たとえば海外を舞台に宝探しにでかけたり、海外に住んでいる人が参加できたりと色々な可能性を感じました。宝探しビジネスの新しい商材が生まれるよいきっかけになったと考えています」
――足元では回復してきましたか。
「7~9月の売り上げは少しずつ戻ってきました。AFTERコロナを見据えて、国が地域の誘客につながる事業への助成金を出しており、地域活性化のツールとして各地の自治体様に弊社の宝探しを活用してもらっています。コロナ禍は東京や都市への一極集中を見直す機運も高めていますが、住む人や外の人がそれぞれの町の魅力を見つけるのに、宝探しの手法は役立ち、今後も増えていきそうです」
海外に広げ 宝探しを文化に
――イベント業界のおもしろさはどこにありますか。
「一番は、お客様の喜びを近くで見ることができることだと思います。宝探しでいえば、宝を見つけたときの喜ぶ姿です。もちろん、一発勝負でこわい部分もあります。私自身、失敗談はいくらでもあります。宝を見つけるまでの手がかりが間違っていて、宝物が絶対に見つけられないなんてこともありました。そのときはお詫びの商品券を渡して謝るしかありませんでした」
「さらに、イベントはその成功が、天候などの外的要因にも左右されがちです。だからこそ、臨機応変に対応する力は大切です。ハプニングですむのか、アクシデントにまでなるのか、それは対応力にかかっています」
――今後の目標があれば教えてください。
「将来的には、宝探し事業を海外に広げていきたいと思っています。日本でこれだけ盛り上がるのですから、宝探しをすることの面白さは、民族も国境も関係ないと確信しています。私たちが圧倒的なパイオニアですが、国内では似たような事業を展開する事業者も出てきました。僕らのライバルでもありますが、どんどん宝探しを展開する事業者が増えれば、いずれ宝探しが文化になる日が来るんじゃないかと思っています。宝探しを文化にする。それが僕の夢ですね」
【プロフィール】齊藤多可志(さいとう・たかし)1969年生まれ。福岡県出身。上智大学卒業後、JTBで法人営業に従事した後、2001年に後輩2人と前身となる個人事業「赤い鳥プロジェクト(グアテマラの世界一美しい鳥といわれ、出会うと幸せになるとされる胴体が赤色のケツァールに由来)」を立ち上げ、2003年に株式会社化させた。座右の銘は「人は神の可能性(人間には無限の可能性を秘めているという意味)」。
【会社概要】株式会社タカラッシュ。東京都江東区。従業員は約50人。宝探しを活用した商品やサービスのプロモーション、地域の活性化、人材研修などの事業を全国で実施している。問い合わせ先は電話(03-3527-7701)、FAX(03-3527-7702)。コーポレートサイト( https://takarush.co.jp/ )
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