Backstage HEROes vol.1 〜石塚えみ さん(イベントプロデューサー・ディレクター)〜
イベント業界で働く現役イベンターに、業界で働くやりがいや葛藤、そしてイベント業界ならではの課題や喜びをリアルに語っていただく「Backstage HEROes」。初回は業界歴20年以上のイベントプロデューサー 石塚えみさんにお話を伺いました。
大規模イベントである『浅草サンバ』の事務局運営に携わったことが、えみさんにとって初めてのイベント業務。これを機に制作会社に入社し、制作業務やディレクター、プロデューサー、営業、人事など多岐にわたり活躍されています。
数年前、母親の病気をきっかけにフリーになることを決意し、現在は培った制作のノウハウを生かし、フリーイベンターとして第一線で活躍されています。
“生きるのも仕事もセンス”
えみさんは基本的に人を動かす立場です。フリーになる前は、企業からコンペ等の依頼が来た場合、クライアントから予算やコンセプトなどの概要をヒアリングします。そして自分のチームにブレスト(企画内容のミーティング)を行い、企画を作り上げていきます。
この時、えみさんは企画を実際に書き上げる立場ではありません。
企画書は企画を書くことに特化した人、文章や構成をビジュアル的にまとめることを得意とする人が作り上げます。えみさんはその企画内容と、クライアントの意向がマッチしているかを確認することが仕事なのです。
この場合のえみさんの立場は『プロデューサー』。
このように、コンペ一つでもチームの中で役割がそれぞれあります。フリーとなった現在は、最初から最後まで企画全般を請け負うことは無くなりましたが、一部のキャスティングや発注手配の依頼を請け負っています。特にえみさんはキャスティング部門に強く、様々なネットワークを持っています。
これは社員として働いていた頃だけでなく、フリーとなった今でも営業に力を入れ様々な人との繋がりを大切にしているからこそできるのです。但し、企画内容がどんなに良くとも、キャスティング部門でコンペを落とすことは多くあります。なぜなら、キャスティングとは最も表舞台に近く集客率やネームバリューに影響するからです。また、前所属していた会社との繋がりもあるので、そこからお仕事をいただくこともあるそう。
えみさんは自分の得意不得意をすごく理解しています。だからこそ、一人でできる仕事、できない仕事を把握しフリーとなった今でも仕事を回せていけるのです。
えみさんの格言は『生きるのも仕事もセンス』です。
“決断のきっかけとなった達成感”
えみさんは元々一般企業に就職していました。しかし毎日のルーティン業務に疑問を抱くようになり、思い切って退職。そんな時にコンパニオンの知人から『3ヶ月間、浅草サンバの事務局運営やらない?』と誘われたのがきっかけです。
当時はノートPCやメールといったツールはなく、ごっついMacコンピューターと黒電話、そしてえみさん一人でのスタートでした。初めは、Macの電源ボタンはどこ?『プレスリリース』って何?といったレベル。
しかし浅草サンバは今も続く大規模イベントで、一人でできるものではありません。
本番日が近づくにつれ、関わってくる人も増えていきます。最終的には約1500人のスタッフが関る大規模イベントとなりました。
あっという間に3ヶ月は過ぎ、迎えた本番日。当時、スタッフ同士の通信手段はポケベルだったそうです。そして本番開始直前、ポケベルが鳴り「ス タ ー ト シ マ シ タ」の文字。
「この文字見た瞬間、私もう感動しちゃって!勝手に涙がボロボロ出てきたんですよ!」
右も左も分からず、たった一人から始まった事務局運営。それが本番を迎える頃には何千人というスタッフと観客がいて、自覚した途端思わず涙したそう。
「たぶん私、この経験でイベント業界で仕事していこうって決めたんです。」
とえみさんは語りました。
非ルーティンワークと苦労した分の達成感は、イベント制作最大の醍醐味です。
“イベントは 「ハプライズ」”
私はこの時初めて『ハプライズ』と言う言葉を知りましたが、えみさんとえみさんの相棒である長年のパートナーとで作った造語なんだと。
意味は「ハプニング」と「サプライズ」を合わせて『ハプライズ』。
ある時、えみさんは上司から「明日パーティーだから」という連絡を受けました。
翌日、えみさんは張り切ってパーティーに合うドレスとヘアメイクをして会場に行くと、渡されたのは台本とトランシーバー。
「あ、これ現場だったんだ。笑」
この日、えみさんはドレスとピンヒール姿で現場を駆け回ったそうです。
これもまた、ハプニングでありサプライズであり、事前に確認をしなかった自分のミスでもあり・・・。 しかし、現場にトラブルは付き物。いかにそんなトラブルを笑って乗り越えられるか。むしろ何も起こらなかった現場は印象が薄れていきます。
「どうせ終わったら笑える出来事になるんだから!イベントは人を楽しませること。だったらそのイベントを作る側の人も楽しまなければ!」
とえみさんは笑って語りました。
“今後のイベント業界に求めるもの”
近年気になるのは人材不足。これは人が足りないというわけではありません。
イベント業界は、人手が欲しければ捻出できる人材派遣会社がたくさんあります。加えて学生のバイトにしては割高のバイト代がもらえるので、昔も今も人気のバイトです。しかし、現場を回す側としては、ただ人が欲しいのではなく、『使える人』が欲しい。
イベントで欲しい人材は、きちんと裏方としての動きをできる人です。
しかし、近頃は『自己主張が強すぎるスタッフが増えた』とえみさんは言います。
最近あった案件では、バイトスタッフがディレクターに何の相談もせずクライアントとやり取りをした上、連絡や報告がなかったこと。他にも商品説明で自分が主役のように振る舞い喋り続けてしまうスタッフ。事前に送った運営マニュアルに目を通さず現場に来るスタッフなど。
「確かに昔もこういった人はいたんだけど、最近はその割合が多くて、指示だけで一苦労!しかも叱ればクレームになる時代だから、なぜかスタッフにも気を使うんです。笑」
このような人たちは伝えて修正できないことが多いのも問題です。イベントは『ナマモノ』だから、常に情報と人が動き、事件が起きています。その中で臨機応変に動き、自分の立場や担当を自分で考え、当たり前である報告・連絡・相談ができる人材がイベント業界で生きていける人。また、テクニカルは舞台技術や照明、音響、映像などの専門学校があります。しかし制作業務、特に現場のノウハウを学べるような場所がない、といったことも話題に上がりました。一応イベント制作の専門学校もありますが、現場のノウハウを学ぶには場数を踏む以外に方法が無いのが実情です。
「もう少しプロフェッショナルな人材が欲しいと思う。」
えみさんがそう言うように、本気でこの業界を目指す人材そしてそういった人材が活躍する機会、また育成をする場も整いきれていないのが業界の課題だと感じる。
<プロフィール>名前:石塚えみ さん/会社名:フリー 個人事業主/年齢:40代/職業:フリーイベントディレクター・プロデューサー
まとめ
今回はフリーのイベントディレクター・プロデューサーの石塚えみさんにお話を聞きました。イベントを始めたきっかけの話は、イベント業務を少しでも理解している人からするとグッとくるものがあります。
イベント業界にハマっていく人の多くは、きっとえみさんのような経験をしているのではないでしょうか。他にも、イベントを作る側も楽しまなければ!という腹の据わった考え方もとても素敵です。
日本の仕事は殺伐としていて窮屈に感じることも多いです。
そんな仕事のあり方を、エンタメが仕事であるイベント業界から変えていけたら良いと思います。
interviewer “KONO”
“Backstage HEROes”ではその名の通り、日頃裏方に徹するイベント創りのプロフェッショナルや業界のこれからを担う若手にフォーカスし、表舞台に立つ演者ではない制作者にスポットを当て紹介してまいります。記事を通じてイベンターの存在価値や社会的地位の向上につながればと願っています。
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